スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-) |
ちいちいももんがあ
なしはうまい。
甘い汁滴る白い果肉に歯を立てると、しゃり、という音とともに、さわやかな香りが鼻をぬける。
口の中は、もう、パラダイス…。


普段はバナナ以外の果物なんてほとんど買わない私が、思いつきで手にしたなし。
その、たまにしかやってこない特別なお客様とのしっとりとした素敵な時間は、呼んでもいないのに無理やり入り込んできたおぞましき侵入者によって、突然に、そして急激に失われたのだった。

「す、すごいものを見つけてしまった。」

そう弱弱しい声を発したのは、すばらしき味わいをできる限り長く堪能するために細かく等分されたひとかけのなしを、隣でもそもそとほおばっていたその人である。今後、このおぞましき侵入者の第一発見者を、便宜上「執行委員」とでも呼ぶことにしよう。さっきまでの「おいしいねぇ」という幸せそうな声はどこへやら。執行委員の表情は恐怖によってゆがめられていた。

白い壁の一箇所を示す執行委員の指の先に目をやる。
いまだ、敵の恐ろしさに関して何の事前情報も持たない素朴な私の視線は、その怪しくさまよう黒い影を的確に、必要以上にはっきりくっきりと捉えてしまった。

黒い身体。
質感は、つるつるではなく、ふさふさ。
いや、とげとげ?もさもさ?
いったいどこから侵入したのだろう、全長5、6センチもあろうかというそのふさふさ野郎は、我が家の白壁にしっかと長い足をのばしている。
その足の数は、ちゅうちゅうたこかい、8本。
8個の目は不敵な笑みを見せていた。
少なくとも、そう見えた。

「ひぃ」

という情けない声を発して、ざざっと後ろに退いたのは、そうこの私、「のんびりなしを食う空間維持対策本部長」である。
わが本部長宅は、確かによくその類の生物が出没する家ではある。とはいえ、いつも出会うお仲間はもっとちっこくて、でかくても1センチに満たないほどのかわいいもんである。あんなふうにどでんと構えたりしてないし、もさもさしてもいない。
あぁ、泣きそうだ。
わんわんと泣いて、大人がちょちょいと退治してくれるのならそうしたい。
しかし、私はもう22歳の大人だ。
迫りくる困難は、自分で解決すべきお年頃なのだ。

そうして思案した後、本部長は動いた。
その力強くしなやかな腕を高らかに掲げ、こう叫んだのだ。


「執行委員、かかれ!」


その間違った凛々しい声を聞いてあっけにとられたのは、他でもない。その命を受けた執行委員である。
「いや、しかし本部長。単に『かかれ』と言われましても・・・。あやつは、あのもさもさとした体つきには似つかわしくない俊足を有しております。何の策もなしに、ただ闇雲に立ち向かっても、そうやすやすと捕らえることはできますまい。」

そうして、「第1回 のんびりなしを食う空間維持対策本部対策会議」が開かれた。
「あの空き箱に、あやつを閉じ込めて外に捨てるというのはどうだろう。」
「それでは、壁の高いところに登ってしまったあやつに手が届きません」
「なるほど。」
「ここは一つ毒霧を使いましょう。毒霧に包まれればあやつもすばやく壁を這う力を失いましょう。そうした時に、いよいよ紙で包んでぽいしてしまえばよいのです。」
「なるほど、なるほど。では、そのように。」

態度だけは「本部長」な本部長が不安げに見守る中、執行委員はスプレー缶を手にした。ふたをとり、狙いを定めて缶の頭をぐいと押し込む。
しゅわわ、という音とともに白い霧が黒いもさもさに吹き付けられた。

その時だった。
黒いもさもさは、その長い8本の足を音もなく動かし、壁をつたい、本部長が身を潜める布団のそばへとやってきたのだ。

「ぎゃーーーー!」

奇怪な声が響き渡る。
逃げ惑う本部長。
それをただ眺めるだけの執行委員。

はっとして敵のほうに視線を戻す。
敵の姿は忽然と消えている。
「あやつは」
本部長が問う。
「物陰に」
執行委員が答える。

立てかけられたギターをゆっくりと傾ける。
いるではないか。
その裏側、ギターの陰の中に。
少しばかり俊敏さを欠いたその物体が。

いや、まだ油断は許されない。
もう一回だけ。
そう、もう一回だけあの毒霧をぶっかけてやれば、完全にもさもさの動きを止められるはず。
今度は、挟み撃ちだ。

執行委員が本部長にもう一本のスプレー缶を差し出す。
本部長がギターの右に、執行委員が左に位置する。
ふたをとる。
狙いを定める。
二人が息をそろえる。


「今だ!」





その後、敵がどうなったのかはよく覚えていない。
「今だ!」の声と同時に目を閉じてしまったからだ。もちろん、スプレーを吹きつけながらではあるが。


こうして、平穏は、私と執行委員と、そしてすうかけらのなしのもとに戻ってきた。その平穏は、先ほどの純粋な平穏とは違い、恐怖の余韻と少しの疲労感を含んでいた。しかし、それでも平穏とはすばらしい。
その後、その勇気をたたえられた執行委員が、なしをひとかけら多く与えられたのは言うまでもない。
スポンサーサイト
【2006/09/19 13:30】 優しい時間 | トラックバック(0) | コメント(0) |
| ホーム | 休日の過ごし方>>
comments
please comment













管理者にだけ表示を許可する

trackback
trackback url
http://discegaudere.blog33.fc2.com/tb.php/54-3ad932e4
| ホーム |

calendar

03 | 2017/04 | 05
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

links

search

template
by
amycco.


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。